それは深夜二時、家族が寝静まった静まり返った家の中で起きました。用を済ませてレバーを引いた瞬間、いつもなら軽快な音と共に消えていくはずの水が、ゴボゴボという不穏な音を立てて水位を上げ始めたのです。便器の縁ギリギリまで迫る茶色の汚水を見て、私の心臓は止まりそうになりました。深夜ですから水道業者を呼ぶのも躊躇われ、私は独力でトイレの詰まりを直す決意をしました。まずスマートフォンで対処法を検索し、最初に試したのは水位が自然に下がるのを待つことでした。三十分ほど経過すると、幸いなことに水位が半分ほどまで下がりました。これは完全に塞がっているわけではなく、トイレットペーパーがどこかで渋滞を起こしているサインです。私は意を決して、物置から埃を被ったラバーカップを取り出してきました。これを使うのは人生で初めてでしたが、ネットの記事に従って、まずはカップを排水口に密着させました。空気が漏れないようにゆっくりと押し込み、そして渾身の力で手前に引きました。一度、二度、三度。感触は重く、なかなか変化は訪れません。しかし、十回ほど繰り返したその時、突然ポコッという小さな音がして、溜まっていた水が一気に渦を巻いて吸い込まれていったのです。あの時の爽快感と安堵感は、何物にも代えがたいものでした。しかし、まだ安心はできません。バケツに水を汲み、少しずつ流して確認します。すると、再び流れが滞り、水位が上がってきました。どうやら一度の操作では、奥に詰まった塊を完全には粉砕できていなかったようです。私は再びラバーカップを握り、今度はぬるま湯を併用することにしました。洗面所から四十五度のお湯を運び、便器に注いで十五分ほど待ちました。ペーパーが十分にふやけた頃合いを見計らって、再度ラバーカップを力強く動かしました。今度は先ほどよりも軽やかな音が響き、水は一点の淀みもなく排水管の奥へと消えていきました。結局、一時間以上の格闘となりましたが、自分でトイレの詰まりを直すことができたおかげで、翌朝の家族の平穏は守られました。この経験から学んだのは、いざという時のための道具のメンテナンスと、何よりも焦らない心の大切さです。深夜のトイレで一人、水の動きに一喜一憂したあの夜のことは、私にとって住まいのメンテナンスに対する意識を劇的に変える出来事となりました。
深夜の絶望から生還したトイレの詰まりを直す格闘記