賃貸物件のトイレから聞こえる、かすかな水の流れる音。あるいは、タンクに水が溜まるのが以前より遅くなった気がする。こうした小さな異変に気づきながらも、「まだ使えるから大丈夫だろう」「大家さんに報告するのが面倒だ」と、つい見て見ぬふりをしてしまうことはありませんか。しかし、その小さな不具合の放置が、やがて取り返しのつかない大きなトラブルへと発展する時限爆弾になり得ることを忘れてはいけません。 経年劣化による水漏れでまず家計を直撃するのは、水道料金の異常な高騰です。タンク内部の部品が摩耗し、便器内にチョロチョロと水が流れ続けている状態は、一日中蛇口を少しだけ開けっ放しにしているのと同じです。一ヶ月後の検針票を見て、普段の数倍にも跳ね上がった請求額に愕然としても、その原因が入居者の報告遅れと見なされれば、超過した水道料金を自己負担しなければならなくなる可能性もあります。 さらに深刻なのが、目に見えない場所で進行する建物へのダメージです。便器と床の接地面などからじわじわと染み出した水は、床材を腐らせ、湿気を好むカビや害虫の温床となります。床が抜け落ちるほどの事態は稀ですが、床材の張り替えが必要になるほどのダメージを与えてしまえば、その修繕費用を巡って大家さんとの間で大きなトラブルに発展しかねません。 そして、集合住宅において最も恐ろしいのが、階下の部屋への漏水事故です。たとえ最初の原因がトイレの経年劣化であったとしても、入居者には危険を発見した場合に速やかに貸主へ報告する「通知義務」があります。不具合を知りながら長期間放置した結果、階下にまで被害が及んでしまった場合、入居者の過失が問われ、下の階の住人に対する損害賠償責任を負うことになる可能性もゼロではないのです。トイレの不具合は、単なる不便さの問題ではありません。それは、あなたの財産と信用を守るための、見過ごしてはならない重要な警告サインなのです。