今や日本の多くの家庭で当たり前となった温水洗浄便座。賃貸物件を探す際にも、その有無を条件の一つに挙げる人は少なくありません。しかし、この便利な設備が、実は賃貸契約における思わぬトラブルの火種になることがあるのをご存じでしょうか。その鍵を握るのが、その温水洗浄便座が「設備」なのか、それとも「残置物」なのかという違いです。 「設備」とは、大家さんが物件の一部として設置し、その性能を保証しているものを指します。入居時から備え付けられていたエアコンや給湯器などがこれにあたります。もし、設備である温水洗浄便座が経年劣化で故障した場合、その修理や交換の責任は大家さんが負うことになります。 一方で、「残置物」とは、前の入居者が自ら設置し、退去時にそのまま置いていった私物のことです。大家さんはその存在を容認しているだけで、所有権は放棄しており、設備としての性能を保証する義務はありません。つまり、残置物である温水洗浄便座が故障した場合、大家さんには修理や交換の義務はなく、使い続けたいのであれば現入居者が自己負担で修理するか、新しいものに交換する必要があるのです。最悪の場合、大家さんから「不要なら撤去してください」と言われる可能性さえあります。 この違いは非常に重要ですが、入居時の契約書に明記されていないことも多く、いざ故障した時に初めてトラブルとなるケースが後を絶ちません。内見時に温水洗浄便座が設置されていたら、必ずそれが設備なのか残置物なのかを不動産会社に確認し、重要事項説明書や契約書にその旨を記載してもらうようにしましょう。もし、残置物であることを承知で入居するのであれば、「壊れたら自分で直す」という覚悟が必要です。この小さな確認を怠らないことが、後々の「言った、言わない」という不毛な争いを避けるための、最も確実な自己防衛策となるのです。